1. はじめに
1-1. 本稿の目的
①社会学を専門とする*1 院生・研究者に向けて文献管理ソフト(Zotero)導入のメリットを紹介すること。
②Zotero導入の具体的な手順と運用方法について示すこと。
*わざわざ対象分野を社会学に限る理由としては、筆者の専攻が社会学であり他の分野については勝手がわからないからというのと、社会学は他の人文社会系の分野に比べて相対的にZoteroを導入するメリットが大きいから(後述;社会学評論スタイルガイドに対応したCSLが既に存在するから)である。とはいえ、本記事の内容は、一部を除けば社会学以外の人文社会科学諸分野の方々にも参考にしていただけるだろう。
1-2. 背景
半年ほど前に、Twitter(現X)にて人文・社会科学系の文献管理について以下のような投稿をしたところ、思いのほか大きな反響があった。
文献管理ソフトとは、その名の通り文献のPDFファイルや書誌情報、メモ等を管理するためのソフトウェアのことである。本稿で紹介するZoteroをはじめ、Endnote、Paperpile、Mendeleyなど、名のよく知られたサービスが複数ある。これらは、基本的には自然科学系分野での普及率が高い一方で、人文社会系においてはそもそも存在自体が十分に認知されていない段階にある。
その理由として考えられるのは、上記ツイートの通り「誰も教えてくれないから」ということだけでなく、そもそも人文社会系は文献管理ソフトを導入するメリットが自然科学系に比べて小さいというのがある。引用RTで幾人かに示唆していただいた通り、特に人文系の一部分野では、ジャーナルの電子化があまり進んでいない傾向にあり、論文が紙媒体でしか手に入らなかったり、扱う書誌情報がネット上では拾えなかったり(=文献管理ソフトの売りであるプラグインが使えない)、ソフトの多くが多言語(というか非英語)の扱いに弱かったりする*2 ので、デジタルツールの導入とあまり相性が良くなかったりするのだ。
とはいえ、そうした一部分野を除けば、人文社会系でも文献管理ソフトを導入するメリットがおおいにある、というのが本記事で伝えたいことだ。少なくとも、社会学の分野で研究に従事している筆者は、Zoteroの恩恵を大いに享受している。 具体的には、以下の項目にいくつか当てはまるものがあれば、是非一度文献管理ソフトの導入を検討してみてほしい。
論文をJ-StageやCiNii、Google Scholar等でダウンロードすることが多い
引用する論文や本の書誌情報の多くがネット上で取得可能である(CiNii, Google Scholar, Amazon等)
PCやタブレットで論文を読むことが多い
紙の文献をスキャンしてPDF化することが多い
ファイル名や書誌情報を手打ちで入力するのが面倒と感じている
引用した文献を末尾の文献リストに入れ忘れることがしばしばある
よく使う引用フォーマットに対応しているCSLが入手可能である
注)本稿が「社会学の文献管理」と題しているのは、この分野でよく使われる「社会学評論スタイルガイド」のCSLが既に存在するからである。 注)CSLのリストはZotero Style Repository 等で検索可能。ただし、GitHubや個人ブログ等でも有志が作成した非公式のCSLが公開されていることがある。
余談:Juris-Mについて
私は過去に、Zoteroの多言語対応版ソフトである「Juris-M」を紹介する記事を書いたことがある。このソフトは、名古屋大学法学部元教員のFrank Benett氏によって開発されたもので、複数言語の入り混じる文献リストをかなり正確に出力する機能を持っている。これにより、日本語文献・外国語文献・翻訳文献でそれぞれ引用割注や文献リストの書き方が異なるような引用スタイルに対応可能となるので、従来の文献管理ソフトの人文社会系との相性の悪さを払拭してくれるような存在といえる。
mineta.hatenablog.com
Juris-Mは素晴らしいソフトだが、いくつかデメリットがある。
アップデートや修正が不定期
そのためかブラウザ拡張機能がしばしばChromeのストアから消えたりする
ソフトの開発・メンテナンスがどうやらBenett氏一人によって担われており、開発が今後も継続されるか否かが不透明
マイナーすぎて情報が出てこない
現状少なくとも筆者のPC環境下では使用可能であるが、動作がやや不安定なので、他人に薦めるのはやや気後れがする。Juris-MはZoteroをベースにしたソフトで、多言語対応機能以外の部分はすべてZoteroと同じなので、使うとしてもZoteroに慣れてからの方がよい。それに、ZoteroからJuris-Mへの移行はきわめて容易なので、まず前者を使ってみて興味があれば後者に移ればよい。
今回はひとまず、文献管理ソフト初心者の方向けの解説を目的としているので、Juris-Mの話は一旦置いておいておこうと思う。
2. Zoteroでできるようになること/できないこと
2-1. そもそも文献管理ソフトって?
そもそも文献管理ソフトを入れると何がうれしいのか、という点については既に多くの紹介記事や動画が存在するため、ここで改めて一から説明することはしない。文献管理ソフトの機能についてそもそも全くイメージが湧かないという方は、以下のリンクを参照してみてほしい。
gigazine.net
VIDEO youtu.be
2-2. 個人的に重宝している機能
上に挙げた記事で紹介されているように、Zoteroを導入することで、さしあたり次のような作業が可能になる。
ブラウザの拡張機能(Zotero Connector)を通して、論文の書誌情報とPDFを一括で取り込む
論文にタグをつけて管理する
WordやGoogleドキュメント上でZoteroと連携して引用を行い、文献リストを自動で出力する
これらの機能は一般的によく知られているかと思う。Zotero本体とコネクターを導入すればすぐにできるようになる。
上記に加え、筆者が個人的にZoteroを導入してよかったなと感じている点は、以下の通りである。いくつか設定をいじる必要があったり、プラグインを導入する必要があったりするためセットアップが若干面倒だが、導入さえ済ませてしまえば後の作業がとても楽になる。
モバイルアプリ版との連携 :PCとiPad等を同期することで、PCでダウンロードした論文をiPadで読んだり、iPad上で論文に対して行った書き込みやメモがPC上で閲覧できたりする。
社会学評論スタイルガイドに準じた文献リストの自動出力 :後述。これはZoteroをインストールするだけではできるようにならない。邦文書/欧文書/翻訳書を区別して書誌情報を出力可能 。
ファイルのリネーム機能 :論文をZoteroに取り込むと、そのPDFのファイル名を自動で任意のフォーマットに書き換えてくれる(例:「筆者名 ‐ 刊行年 ‐ 題名」)。エクスプローラーで論文を管理していると、PDFをダウンロードしたときにファイル名をわざわざ自分で書き直す必要があるので、その手間がなくなるのは大きい。
文献・書誌情報・メモを一元的に管理 :エクスプローラーやExcel等で文献管理するデメリットの一つは、文献ファイルとその書誌情報の格納場所が別々になってしまうという点にある。Zoteroを使うとそれを一括で管理できるので便利。
同一文献を複数フォルダで表示可能 :たとえば、「リスク論」と「エコロジー論」のいずれにも該当するような論文を保存したいとき、これを「リスク」のフォルダのみに入れてしまうと「エコロジー」のフォルダを開いたときにこの論文が出てこないことになる。とはいえ一つのファイルをコピーして2つのフォルダに入れておくのは手間だし容量を食う。しかしZoteroにおいては容量を増やすことなく同一のファイルを複数のフォルダに保存可能なので、「あの論文どのフォルダに入れたっけな…」と迷うことがなくなる。
PDFの本文内容を横断的に検索 :Zoteroに取り込んだ文献の本文内容は、テキスト情報が含まれていれば、一括で横断的に検索することができる。「高度な検索」>「添付ファイルの内容」を指定して、「○○○」というキーワードで検索をかけると、「○○○」という言葉に言及がある文献ファイルをざっと表示してくれる(ただし精度にはややムラあり)。Windowsのエクスプローラーではデフォルトだとこれができない。
DeepLとの連携 :別途プラグイン(Zotero PDF Translate)とDeepLのAPI(制限付き無料)を取得することで、Zotero上で選択した文字列をDeepLで翻訳→翻訳結果を注釈欄に保存しておくことができる。外国語文献を読む際にとりあえずざっと内容を掴みたいときや、DeepLで下訳を作ってから自分で訳文を作りたいときなどに使いやすい。
生成AIとの連携 :筆者は使っていないが、お好みの生成AIのAPIを取得しプラグイン(「Zotero-GPT」等)と連携させれば、Zotero上でChatGPTやGemini, Claudeなどを使用することができる。これにより、Zotero上で論文を要約させたり、翻訳をさせたり、ポイントについて解説をさせたりすることができる。
本文中の文献注にカーソルを重ねると文献の書誌情報が表示される :Zotero 7から新しく装備された機能。以下の画像のように、本文中に出てくる引用の割注(Man, 1986)にマウスカーソルを置くと、論文末尾に記載されている文献リストの該当箇所が表示される。本文中の引用がどのような文献からのものなのか確認したいときに、いちいち末尾の文献リストまでスクロールする必要がなくなって便利である。文末脚注についても同様の機能がある。ただしまだ精度は低い。
画像に写っていないが、本文中の「Man」の箇所にマウスカーソルを置いている
2-3. Zoteroではできないこと
Zoteroには非常に魅力的な機能が多く搭載されている一方、現段階では技術的な制約でできないこともある。あらかじめ、何ができないのかについても触れておこう。
文献管理ソフトの大きな魅力の一つは、Wordその他の文書作成ソフトにおいて自動で文献リストを出力してくれることである。
「社会学評論スタイルガイド」によると、論文末尾の文献リストは、
和文の文献も欧文の文献も含めてすべての文献を,著者または編者(共著・共編書の場合は筆頭者)の姓のアルファベット順にリストアップする
必要がある。
しかしZoteroの機能だけでは、日本語著者の読みを認識してアルファベット表記順に並べる、などという器用な芸当はできない(*先述の多言語対応文献ソフト「Juris-M」ではある程度高い精度でそれができるのだが、これについては別稿で解説予定)。
たとえば、以下のように本文中で和文・欧文の文献を引用したとする。
すると、現時点では、自動出力される文献リストにおいて、外国語文献と日本語文献が別々に記載されてしまう。しかし、本来ここは、赤堀(2021)→Luhmann(1984)→Luhmann(1990)→三上(2013)→Nassehi(2008)の順に並んでないといけない。
欧文文献→邦文文献の順番で別々にリスト化される。
またそれ以外に、現状の「Juris-Mで社会学評論」CSLにはいくつか体裁面で細かな修正点がある。たとえば、
翻訳書の書誌情報をくくる括弧が半角で出力されてしまう
字下げが全角4文字分になってしまう(本来は2字下げ)
ドイツ語の文献が英語と同様の扱いになるため、編者がHrsg.と表記されなかったり複数著者がundでなくandで繋がれてしまう
これらはCSLを編集することで修正可能と思われるが、あいにく筆者にそのあたりの知識がない。(現在勉強中なので、もし修正バージョンが作成できたら公開する予定。)
なお、これらの問題点は、暫定的な解決案としてNotebook LMを使用することによりあまり手間を掛けず修正作業が行えるので、それについても後で解説する。
2-4. 本稿で目指すZoteroの形
Zoteroの諸々の設定をどのように行うかや、どのプラグインを入れるかは、各人が理想とする文献管理のスタイルに大きく左右される。たとえば、論文を紙媒体でしか読まなず書誌情報のみをZotero上で管理したいという人は、Zotero本体とChromeの拡張機能、引用スタイルの設定くらいで作業が終わるが、筆者が使っているような上述の機能をZotero上で可能にしたい場合、WebDAVの設定やプラグインの導入が必要となる。
以下ではさしあたり、「PC(Windows)・タブレットで論文を読み、Wordで執筆作業を行う、社会学評論スタイルガイドを使うの方向けのZotero 」環境構築の方法について解説していく。各人の目的や研究環境に照らして不要と思われる工程については適宜スキップしていただきたい。
3. 導入
3-1. Zoteroのインストール
まずはZoteroのダウンロードページにアクセス。
www.zotero.org
3-2. Zotero Connectorの導入
CiNiiやGoogle Scholarから論文のファイルと書誌情報を取り込む際に必要となるブラウザ拡張機能をダウンロードする。
現在、Chrome, Edge, Firefox, Safariに対応した拡張機能が用意されている。
www.zotero.org
Zotero Connectorがダウンロードできたら、一旦動作確認をしてみるとよいだろう。
あらかじめZotero上で「マイ・ライブラリ」の中に適当なフォルダを作っておく。J-Stage等で任意の論文のページを開き、Zotero Connectorのボタンをクリック(ボタンはピン留めしておくとよい)。
Zoteroを見てみると、当該論文の書誌情報とPDFが指定フォルダ内に取り込まれているはずだ。
3-3. 同期設定(←結構手間がかかるので後回しでもよい)
*この作業は一つのPCでしかZoteroを使用しない人は省略可能
3-3-1. 同期方法の種類
Zoteroを複数端末で使いたい場合、同期の設定を行う必要がある。
Zoteroが提供するクラウドストレージは、無料版では300MBまで利用でき、それ以上の容量が必要な場合は、有料プラン(*とても高い!!)に加入する必要がある。300MBなどあっという間に尽きてしまうので、Zoteroの同期機能を無料で使用したい場合、別の方法をとる必要がある。
選択肢は2つある。
GoogleドライブやOne Driveなどのオンラインストレージを保存先に指定する(→以下3-3-2.へ) :複数PCで同じZoteroを使いたい、かつタブレットではZotero公式アプリを使わない場合 に有効。PCでのみZoteroを使用する人、あるいはタブレットを使用する場合でも公式アプリではなくPDF Expert等のPDFリーダーを使いたい人はこちら*3 。 :無料枠はGoogleドライブなら15GB 、One Driveなら5GB。
WebDAVを使う(→以下3-3-3.へ) :複数PC間での同期 + iPad等でZoteroアプリを使いたい人 向け :無料枠は20GB (InfiniCLOUDの場合、執筆時現在) :無料枠で足りない場合は1. と同様サブスクのほか、買い切り型WebDAV(Pcloudなど)を購入するという選択肢もある*4 。筆者は今のところ無料枠で足りている。確認したところ、現状約1200アイテムで10GB使用という状況だった。
3-3-2. Googleドライブ等を使用する場合
1. の方法を取りたい場合 、任意のオンラインストレージのデスクトップ版の導入と「ZotMoov」というプラグインの導入が必要となる。
もしGoogleドライブを使うのであれば以下の記事を参照。
lab.nounai-librarian.com
ただしこの記事はやや古く、前バージョンのZotero 6 を対象とした解説になっている。ZotFileというかつて定番だったプラグインが紹介されているが、これはZotero 7に対応していない。現在は代わりにZotMoovというプラグインを入れる必要がある。以下の記事を参照のこと。
plaza.umin.ac.jp
同期設定がうまくいっていれば、Zoteroに論文を取り込んだ際、Googleドライブの指定フォルダの中に当該論文のPDFファイルが保存されているはずだ。
3-3-3. WebDAVを使う場合
ZoteroのモバイルアプリはGoogleドライブ等のクラウドストレージに対応していない 。公式の有料クラウドかWebDAVを使用することで同期することが可能となる。
WebDAVを使用した同期方法については以下の記事がとても分かりやすい。筆者もこの記事と同様InfiniCLOUDを使っている。前にZotero 6 との同期が上手くいかなくなったことがあったが、最新版のZotero 7 では問題なく同期ができている。
なおInfiniCLOUDは登録時に紹介コード(WTJP6 )を入力すると5GBもらえる。
necostat.hatenablog.jp
PC版とモバイルアプリ版の同期設定がそれぞれうまくいっていれば、PCで取り込んだ論文がiPadでも読めるようになるはずだ。また、iPadで行ったハイライトや書き込みがPC上でも読めるようになる。
3-4. CSLの導入
文献管理ソフトの素晴らしいところは、指定した引用スタイルに沿って文献割注を入れたり、文献リストを自動で出力したりすることができる点にある。その引用スタイルの指定に使うのが、CSL(Citation Style Language)と呼ばれるファイルフォーマットである。
CSLはZoteroにデフォルトで入っているものを使うか、ネット上で他の誰かが公開してくれているものを使うか、そうでなければ自分で作る。
ここでは、既存の「社会学評論スタイルガイド(第3版) 」対応CSLを導入する手順を解説する。
①まずはGitHubの以下のページにアクセス。
github.com
このページでも説明されている通り、このCSLは元々Juris-M(前述)にデフォルトで備え付けられていたものである。有志の方がそれを改良して公開してくれている(ありがとうございます)。
Juris-M用のCSLとはいえ、Juris-Mそのものが元々Zoteroベースのソフトなので、このCSLはZoteroでも問題なく動く。(*ただし、Juris-Mと違い、邦/欧文献の混在する文献リストを自動でアルファベット順に並べてくれる機能は失われる。後述するように、この点については手動で修正するか、生成AIを活用することでカバーする。)
②スクロールして、下の画像でマークした箇所をクリック。
次のページのダウンロードアイコンをクリック。
これで「jss-lewis-sato.csl」というファイルがダウンロードできるはず。
③ダウンロードフォルダからjss-lewis-sato.cslをダブルクリック→インストールをする。
*【もし③がうまくいかなかった場合】
エクスプローラー上でZoteroのインストールされている場所を開く。
デフォルトだと、「C:\Users\[ユーザー名]\Zotero」がそれに当たる。よく分からない方は、Zoteroを開き、保存済みの適当な文献を右クリック→「Show File」でストレージが開くので、そこから2個前に戻ればOK。
そうしたら、「styles」というフォルダがあるので、この中に先ほどダウンロードしたCSLファイル(jss-lewis-sato.csl)を入れておく。
④最後に、Zoteroを開き、「編集」>「設定」>「エクスポート」>「アイテムのフォーマット」から、「Juris-Mで社会学評論」を選択。
これでZotero上で社会学評論スタイルガイド対応の引用形式が使えるようになった。
まだ完成ではないが、一旦この段階で、CSLがうまく作動してくれるかチェックしておくとよいだろう。Zoteroに保存した適当な文献を選択して「Ctrl + Shift + C」を押したあと、適当な場所にペーストしてみるとよい。問題なく導入ができていれば、スタイルガイドに沿った形で書誌情報を出力してくれているはずだ。
このとき、場合によっては日本語文献の書誌情報が外国語文献の形式で出力されてしまったり、その逆が起こったりすると思う。日本語文献と外国語文献を区別して引用形式を切り替えるためには、書誌情報の「言語」フィールドが正しく入力されている必要がある 。言語欄は、ブラウザから論文を取り込んだときに自動で補完してくれない場合がしばしばあるので、これに対応してくれるプラグインを入れておく必要がある。
3-5. プラグイン「Linter for Zotero」の導入
Zotero言語フィールド欄を自動で補完してくれるプラグインとして、「Linter for Zotero」というものがある。これを入れておくと、文献タイトルから使用言語を自動で判別してくれるので、自分でいちいち手入力する手間が省ける。
①以下のリリースページから最新のxpiファイルをダウンロード。
github.com
②Zoteroアプリを開き、「ツール」>「Plugins」> [右上の歯車アイコン] >「Install Plugin From File」 を選択。エクスプローラーが開くので、さきほどダウンロードしたxpiファイルをクリックする。これでプラグインが使えるようになる。
③Zoteroの「編集」>「設定」からLinter for Zoteroの設定を行う。
デフォルトだと、「Title」の"Title should be "Sentence case""にチェックが入っている。これがオンの状態だと、英語文献(というかアルファベットが使用されている文献全般)を取り込んだときに、先頭の一文字のみが大文字になり、それ以外がすべて自動で小文字になる。少なくとも「社会学評論スタイルガイド」を使いたい人はチェックを外しておくべきである 。
また引用スタイルに関係なく、ドイツ語文献を扱う場合は絶対にこのチェックを外しておく必要がある 。Linterは文献タイトルが英語だろうがドイツ語だろうが関係なくこのルールを適用してしまう。ドイツ語では名詞の頭文字を常に大文字にするので、勝手にタイトルを小文字にされると困る。
④次に、同じ設定画面の下部にある「Language」欄を入力する。
ここは各々、研究に使う使用言語を入力しておけばよい。筆者は基本的に日本語とドイツ語、英語の文献を扱うので、下のように入力している。コードについては、ISO 639-1コード を参照のこと。
⑤これでLinter for Zoteroのセットアップが完了した。ブラウザから論文を取り込むと、自動でLinterが起動して「言語」フィールドを埋めてくれるはずだ。
なおLinterは、既にZoteroに保存済みの文献の言語情報も埋めてくれる。Zoteroの「マイ・ライブラリ」から、「Ctrl + A」で全選択>右クリック>「Linter」>「Auto Set Item Language」を選択すればOK。
以上の作業により、Zoteroが欧文/邦文を区別して引用形式を切り替えることが可能になった。
3-6. その他のおすすめ設定
必須ではないが、ついでに以下の設定を済ませておくことをおすすめする。
リネーム機能の設定
「編集」→「設定」→「一般」→「File Renaming」→「リンクされたファイルの名前を変更」にチェック
デフォルトでは「ファミリーネーム - 刊行年 - タイトル」になっているが、これは「Customize Filename Format」のところから変更可能
PDFを開くソフトの指定
「編集」→「設定」→「一般」→「Reader」→「PDF書類を開く」から、Zotero上でファイルを開くのか、PCのデフォルトアプリで開くのかを選んでおく(個人的には前者のほうが使いやすいと思う)
スナップショットのオフ
「編集」→「設定」→「一般」→「ファイルの取り扱い」→「ウェブページからアイテムを作成するときに自動的にスナップショットを作成する」にもしチェックが入っていたら外しておく
4. 一旦動作確認:Wordで文献リストを自動作成してみる
ここまで作業が済んだら、Zoteroのセットアップがおおよそ完了したといえる。(*翻訳書の取り扱いについては次節で解説する。)
Word上で文献リストの出力が問題なく作動するか確認しておこう。
Wordを開くと、新たに「Zotero」タブが表示されるようになっているはずだ。
「Add/Edit Citation」またはショートカットアイコンをクリックすると、以下のようなポップアップが出てくるので、「Juris-Mで社会学評論」を選択する。
すると以下のような検索画面が出てくる。
検索欄に自分が引用したい文献の著者名または文献名(刊行年や掲載雑誌名等でもOK)を入力すると、Zoteroに保存されている文献情報が選択できるはずだ。
次に、Zoteroタブから「Add/Edit Bibliography」クリック。
問題なくプラグインが機能してくれれば、本文中の引用に対応した文献リストが自動作成されるはずだ。
任意:クイックアクセスおよびショートカットキーの設定
Word上でZoteroの引用コマンドを使うとき、毎回マウスでZoteroタブを選択して「Add/Edit Citation」ボタンを押すのは面倒くさい。クイックアクセスかショートカットキーを設定しておけば、引用コマンドの呼び出しがとても楽になる。
クイックアクセスの設定方法
クイックアクセスを設定すると、Wordの上部左側に以下のようなボタンを配置することができる。これを押せばわざわざZoteroタブに移動することなしに「Add/Edit Citation」を呼び出せる。
Wordの「ファイル」タブから「オプション」を開き、「クイックアクセスツールバー」>「コマンドの選択」>「Zoteroタブ」>「Add/Edit Citation」>「追加」を選択すればOK。
ショートカットキーの設定方法(推奨)
Wordの「ファイル」タブから「オプション」を開き、「リボンのユーザー設定」>「ショートカットキー:ユーザー設定」を開く。「分類」の一覧に「Zoteroタブ」があればそこから、なければ「マクロ」から、「ZoteroAddEditCitation」を選ぶ。「割り当てるキーを押してください」の箇所にお好みのショートカットキーを入力すればOK。
なお筆者は「Alt+Z」に指定している(他のデフォルトのショートカットキーと被らないのと、Z=Zoteroと覚えやすいから)。
これで、キーボードの操作だけで引用コマンドを使うことができるようになった。
5. 翻訳書の書誌情報の入力方法
さて、ここまで来ればセットアップはおおよそ完了といえる。しかし現段階ではまだ、翻訳書の書誌情報の出力ができない。
「社会学評論スタイルガイド」で指定されている引用形式では、翻訳書は原書の情報の後に括弧書きで翻訳書の書誌情報を記載することになっている。たとえばフロムの『自由からの逃走』は次のようになる。
Fromm, Erich, 1941, Escape from Freedom , New York: Reinehart and Winston.(日高六郎訳,1951,『自由からの逃走』東京創元社.)
また、本文中での引用時には、引用文のあとに括弧書きで、
(Fromm 1941=1951)
というふうに、著者名のあとに原書刊行年と訳書刊行年を併記したうえ、間をイコール記号で結ぶ必要がある。
前手順で導入した「Juris-Mで社会学評論」は、そうした翻訳書の特殊な書誌情報の書き方に対応している稀有なCSLである。ここでは、上の例のようにフロムの『自由からの逃走』の書誌情報をZoteroで出力できるようにする手順を見ていこう。
①原書の書誌情報を取り込む
Google Books等で検索し、Escape from Freedom の原書の書誌情報をブラウザ拡張機能(前述)を使って取り込む。この本のように、複数のバージョンが存在する書籍を扱うときは、取り込むデータが自分の参照している本のそれと一致しているか注意すること。
②情報の過不足を埋める
Zoteroの書誌情報フィールドのうち、抜け落ちているものがあれば補填する*5 (Google Booksだと出版社の所在都市が抜けやすいので注意*6 )。「スタイルガイド」に準拠した書誌情報を出力するためには、タイトル・著者名・都市・出版社・出版年・言語のフィールドがそれぞれ正しく記入されている必要がある。
こんな感じで入力できていればOK
③「その他」フィールドに翻訳書の情報を書き込む
翻訳書の書誌情報は、以下のルールに従って「その他」フィールドに手打ちする必要がある(論文や論集の場合の書き方は後述)。
alt-issued:[=翻訳書の刊行年] alt-publisher:[=翻訳書の出版社] alt-title:[=邦訳タイトル] alt-translator: [=翻訳者の氏名]
たとえばフロムの『自由からの逃走』の場合は、「その他」フィールドに以下のように手入力する*7 。
④言語フィールド欄を「en>ja」に変更する
Zotero側がこの本を「翻訳書」として認識してくれるように、言語フィールドの欄を「en>ja」と入力する。言語欄に半角不等号とjaを付け足すことで、この本が英語からの邦訳書であることが認識されるようになる。
⑤確認
最終的に、以下のように各フィールドが埋められていればOK。
動作確認をしてみよう。
Wordを開き、Zoteroタブまたはショートカットキー等から「Add/Edit Citation」を呼び出す。検索欄に「Fromm」などと入力し、「Escape from Freedom」を選択する。
すると下の画像のように、スタイルガイドの形式に従って、「(著者名 原書刊行年=訳書刊行年)」の形で引用割注を出力してくれる。
次に、「Add/Edit Bibliography」をクリックして文献リストも出力してみよう。
うまくいっていれば、翻訳書の書誌情報がスタイルガイドに準拠した形で出力されるはずだ。
⑥翻訳文献が論文や論集の場合
翻訳されている文献が書籍ではなく論文や論集の場合、翻訳文献のページ数や論集タイトルなどを追加で入力しておく必要がある。その場合の入力ルールは以下の通り。
・学術論文の場合
alt-translator: [=翻訳者氏名] alt-issued:[=翻訳文献刊行年] alt-title:[=邦訳タイトル] alt-container-title:[=掲載誌タイトル] alt-volume:[=掲載誌の巻] alt-issue:[=掲載誌の号] alt-page:[=掲載ページ数]
・論集の場合
alt-translator: [=翻訳者氏名] alt-issued:[=翻訳刊行年] alt-title:[=邦訳タイトル] alt-container-title:[=論集タイトル] alt-publisher:[=翻訳書出版社] alt-page:[=掲載ページ数]
*なお、翻訳者が複数名いる場合 、alt-translatorの欄を翻訳者の数だけ増やすか、単に複数翻訳者の氏名をナカグロ(・)で繋いで書いておけばよい(出力される結果は同じ)*8 。
論文の場合の入力例として、以下の翻訳論文の書誌情報をZoteroに保存したい場合のことを考えよう。
Luhmann, Niklas, 1997, “Globalization or World Society: How to Conceive of Modern Society?,” International Review of Society , 7(1): 67–79. (大黒岳彦訳,2014,「『グローバリゼーション』か、それとも『世界社会』か——現代社会をどう概念化するか?」『現代思想』7(1): 86–101.)
まずはGoogle Scholar等で、Luhmann (1997) の原論文の情報を取り込む。次に、Zoteroの「言語」欄を「en>ja」に変え、そして「その他」欄に以下のように情報を入力する*9 。
alt-translator: 大黒岳彦 alt-issued: 2014 alt-title: 『グローバリゼーション』か、それとも『世界社会』か——現代社会をどう概念化するか? alt-container-title: 現代思想 alt-volume: 7 alt-issue: 1 alt-page: 86-101
以上のように、翻訳文献の場合は一つ一つ手打ちで書誌情報を入力する必要があるため若干面倒だが、一度この作業をやっておけば後の執筆作業がかなり楽になる*10 。
6. 文献リストを著者順に並べる(+細かい問題の調整)
6.1 Zoteroが出力するリストは完全ではない
先述したように、ここまでの作業で出力可能になる文献リストは、欧文文献と邦文文献が別々に記載されてしまい、何らかの方法で著者姓のアルファベット順でソートを行う必要がある。
(再掲)
欧文文献→邦文文献の順番でリスト化される。 本来ここは、赤堀(2021)→Luhmann(1984)→Luhmann(1990)→三上(2013)→Nassehi(2008)の順に並んでないといけない。
これに加えて、現状の「Juris-Mで社会学評論」CSLには、ほかにも修正されるべき細かい点がいくつかある。たとえば、「スタイルガイド」には文献リストの表記に関して以下のようなルールがある。
論文タイトルに一重カギ括弧が含まれる場合、文献リストにおいてはそれを二重カギ括弧に置き換える必要がある。
ネット上で書誌情報を取り込んだ際、日本語文献の副題がコロン(:)の後に表記されることがあるが、文献リストにおいては二倍ダッシュ(——)で主題と副題をつなぐ必要がある。
ドイツ語文献に関して*11 :著者が複数いる場合は著者の間を「and」ではなく「und」で繋ぐ。編者については、「ed.」や「eds.」ではなく「Hrsg.」とする。
例として、英語・ドイツ語・日本語が混在する以下のような文献リストを出力したとする。
赤でマークをした箇所に表記の誤りがある。
赤いマークの箇所に見て取れるように、表記のミスが生じる。上から2つ目の文献はドイツ語文献なのでandではなくund、edsではなく(Hrsg.)と各必要があるのと、出版社の所在地が抜けている。また渡會(2004)は「『構築主義論争』再考」と二重カギカッコを使う必要があり、赤堀(2021)は副題をつなぐコロンが2倍ダッシュに置き換えられる必要がある。
これらの修正作業を行う方法は2通りある。 一つ目は手作業で直す方法で、二つ目はAIを使って校正する方法である。 前者は分かりやすく確実だが手間がかかる。 後者は非常に楽で早いが、そのかわり注意は必要だ。文献リストは論文の信頼性に直接的に関わる箇所であるので、下手な使い方でAIに修正作業を依頼して、リストに架空の論文を記載してしまった、などということがあってはいけない。
少なくとも、筆者の経験範囲内では、後述の方法を取る限りではいわゆるハルシネーション(実在しない文献を挙げたりすること)は生じておらず、かなり正確に校正作業を行ってくれる。方法の解説はするが、使用については自己責任でお願いしたい。
6-2. 手作業で修正する方法
まず、手作業でリストを修正する際は、①Zoteroの側の情報を補完し、②残りはWordで直接手を入れる。おおよそ以下の手順を踏むとよい。
Word上で文献リストを自動出力する
出版社の抜け等があった場合は、Zotero上で当該文献の「出版社」フィールドを埋める
Wordに戻り、「Zotero」タブから「Refresh」を押す
残りは手作業で修正するので、Wordの「Zotero」タブから「Unlink Citations」を選択する
要修正項目を手で直す
文献リストがあまり長くない場合はこのように手で直すのが早くて確実だろう。
6-3. 生成AI(Notebook LM )を使用した修正方法
文献リストがある程度の長さになってくると、手作業でリストの順番を手直しするのはかなり手間がかかる。
以下では、生成AI(Notebook LM )を使って上述の問題を解消する方法を紹介する。他の生成AI(Gemini, Claude)を使用することも可能ではあるが、この作業に関してはNotebook LMが最も精度が高く安定している(なお、試したところChat-GPT 5は精度が低かったのでおすすめしない)。
Notebook LMでは、ユーザー自身がソースを指定することができるので、AIが勝手にネットから信頼できない情報を拾ってくることを避けられる。以下で行うように、「社会学評論スタイルガイド」のPDFと自身の使用言語に即したプロンプトを読み込ませておけば、非常に高い精度でリストの校正を行ってくれる。
以下、具体的な手順。
Wordで文献リストを自動出力する。
下記リンクからNotebook LM を開く。Googleのアカウントがあれば無料で利用可能(2025年11月現在)。
notebooklm.google.com
*このNotebook LMには、『社会学評論スタイルガイド第3版』と、修正依頼用のプロンプトをソースとして読み込ませてあります 。
チャット欄に要修正版の文献リストを投げる。特に追加で指示(プロンプト)を送る必要はなく、リストだけ送ればOK。
修正項目の確認と修正版の文献リストが出力される。著者の姓のアルファベット順にきちんとソートされていることを確認する。
またドイツ語文献のandがund、eds.が(Hrsg.)に正しく変換されていたりと、細かい書式上の問題が修正されている。副題のコロン→2倍ダッシュや、一重カギカッコ内のカッコの扱い、出版社所在地の抜けなどがきちんと指摘されていることがわかる。
文献リストと同時に修正対照表も出力されているので確認する。 まず並び順だが、文献リストを見た限りでは正しくソート処理がされていたが、よく見てみると「渡會(Watarai)」の読み方が「Watoso」と認識されている。結果的に正しい位置に収まっているが、人間と同様AIも読み間違いをするので、きちんと自分の目で確認する必要がある。
形式面での修正内容も対照表として出力されるので確認する。
末尾には「エラー」として、文献の一つに出版社の所在地が抜けていることが報告されている。調べて補っておく。
出力された修正版のリストをWordに貼り付ける。このとき、旧版のリストと見比べて、きちんと誤字脱字が修正されているか、また誤った修正の仕方がなされていないか綿密に確認する。
Notebook LMで出力された文献リストをそのままWordに貼り付けるとこんな感じ。出版地の所在地が抜けているところは「(所在地要確認)」となっているので修正する。
Wordのインデント機能を使って2字下げにする。
完了!
注意 :
上記リンクのNotebook LMに読み込ませているプロンプトは、日本語・英語・ドイツ語にしか対応していない。各自の研究環境にあわせてプロンプトを再構成していただきたい。
7.まとめ
ソフトの導入をし、作業に慣れるまでの時間はなかなか面倒だが、1週間ほどで基本的な動作はストレスなくできるようになるはずなので、これまで文献管理ソフトに手を出せていなかった方はぜひこの気にチャレンジしてみてほしい。
私はZoteroによって書誌情報の管理やスキャンデータの管理がとても楽になった。慣れることさえできれば、導入のストレスを上回る快適さを無料で手に入れることができる。
ただ、一方で改善すべき点もあるため、それについてはコツコツ勉強しながら方法を考えていきたい。CSLの改善バージョンは近い内に作成して公開できる・・・はず。
長くて煩雑な記事になってしまいましたが、ここまでお読み頂きありがとうございました。
本記事の不明点や修正点があれば直接お問い合わせください。CSLやNotebook LMのプロンプトの改善案などももしあればぜひご共有ください。
メール: t.minegishi3493[at]gmail.com Twitter (現X): @Ananasbonbon21